公開異常

07.6/2
千葉県にアウトレットコンサート長柄というショッピングセンターがある。
そこで格安でライヴが行われるという。これは参加しないわけにはいくまい。

受付は当日という事で、当日またもやNと2人で行ってみる。
そこはとてものどかな雰囲気で土曜ということもあってか子供たちで溢れていた。
まるで遊園地や動物園のようだ。案内板をもとにライヴ会場らしき場所へ行ってみる。
しかし、そこは普段目にしているライヴハウスとは全くかけ離れた空間だった。

まず、防音という概念がない。「コンサート」と名前が付くので、何か音響設備があると思われる方もいるだろう。
しかし残念ながらそのような物は無い。大きな建物の中にお店が並んで…というのも違う。
アーケードの無い商店街のようなものだ。そんな中、用意されたライヴ会場は元々あったものではなく、 ただ単にお店が撤退した後の空き空間だったのだ。
おそらく、開設時には演奏をする事を考えていなかったのだろう。
コンコースの概念すら無い事に憤りを覚えながら会場に着いた私は愕然とした。

ガラス張りの室内に椅子が並べられているだけ。
一応ステージにはコンシューマー向けのスピーカーが用意されているが、ただそれだけ。
トミースミスの機材フルセット(ドラム・ギターアンプ等全てトミースミスだった)は私の目には映らなかった。
廃れたデパートのようなステージに立てば、さらしもの状態。まさかここまで理想に近いとは思わなかった。
これこそまさに「ショッピングセンターで負塊」と言える、夢の舞台だった。


そんな中、緑色のタキシードを着た40歳位の長身の男が1人、会場に立っている。
彼が主催者である事は事前に確認していたが、今一歩が踏み出せない。だって、
緑色のタキシードなんだもん。
もちろんシルクハットも緑。時には仮面舞踏会のようなメガネもしている。
まさにタキシード仮面緑版。明らかに様子がおかしいでしょ?しかもデカイし。怖くて話かけられないよ。

2人で困惑しながら辺りをうろうろしていると、ある事に気がついた。
自分たち以外にも辺りをうろうろしている奴らがいるのだ。

ある者は、隣のお店の商品を見ながら、ある者は曲がり角の影から。
決して緑色のタキシードの男に見つからないようにチラチラと様子を伺っている。
しかし、同じ境遇だから分かる。違和感のある存在。
中には明らかにギターを背負っていながら、別のお店で商品を見ているふりをしている者もいた。
こんな山奥に何かを背負って来る奴はいない(ここは山奥のダムに隣接している。だから防音しなくても大丈夫なのだが)。

ガラス張りなので近くまで行くと緑色のタキシードの男に見つかってしまうのだ。なのでみんな死角から様子を伺っていた。
それはまるでみんなで緑色のタキシードの男を監視しているかのようだった

映画のワンシーンのような張込み。しかも互いを知らない。こんな状況ありえない。
そんな中、意を決したうちらは思い切って店内に入って行った。
ライヴはなんとエントリー順でうちらが一番手となった。

エントリーを済ませ、会場を出るとわらわらと他が現れた
こんなにいたのか。と思うほど潜んでいたのだ。私が認識していたのはごく一部だった。

会場は予想以上だったが、Cloveから機材を借りて来ていたので音は問題無かった。
問題はNの楽器だった。前日にNが「明日使いたい楽器があるんだけど…」と言い、ヤカンを持ってきたのだ
ヤカンをどうするんだろう?と前日色々考えたが答えは出なかった。

そして当日、彼がアンプに繋いだのはポットだった。ヤカンは言わば付属部品だったのだ。

ミシンにノコギリにポット、傍らにはベースが数本転がっている。
会場はパニックだった。携帯電話でしきりに「ミシン!何かわかんない!弾いてる!」と必死で誰かに電話する人の姿が目立った。
園内放送では「フォーク・ロック・アバンギャルドなど多彩な演奏が〜」と繰り返し宣伝している。
アバンギャルドって何ですか!?

そんな中、何も知らないおじいさんが椅子に座った。ここはショッピングセンター。当然、一般客の方たちがご覧になられるのだ。
もちろん、臆することなく叫び、切り、縫ったけど。
みんな価値観が広がった事でしょう。いやぁ、良い事した。


ちなみに緑色のタキシードの男は、彼の話によると休日に公園で遊んでいる子供たちを集めてダンスを教えたりしているそうです。
リアル…(ry
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