異常者の歴史

そして伝説へ

06.5/14

よく考えたらヘコんだのはおじさんの方だった。
それまで真面目に音楽に取り組んでいた人に突然、異常者なんて物を突きつけてしまったわけだから。
たぶん、俺たちが今までやってた事はなんだったんだろう・・・ってなったと思う。もっと若ければ柔軟に対処出来ただろうけれど。
それでも60才にしては頭が柔らかかったと思う。これは音楽として否定出来ない、でも認めたくないっ。って何度も言ってた。

Fの話だとパニック症状が出ていたらしい。俺はヘコんでて気付かなかったが。
今の音楽はここまで来てるんだ…俺らの時代とは違うな…とも言っていた。思い返すと何だか悲しそうだったような気がする。
今の音楽というより、ここが特別な気もするが彼にとっては今の若い人たちの音楽は皆こうだと思ってしまったのかも知れない。
とんでもない誤解を生んでしまった。

そう考えるとヤケに異常者に噛み付いてきたわけも解るし、何度も弾こうと試みてたのにも説明が付く。
なんとか自分の中で消化しようとしていたんだと思う。最後にはオリジナルチューニングを考え出しブルースを弾いてた。異常者で。

まぁ、気を取り直した俺は負塊のリハで初めて合わせた。むしろ初対面の人もいた。
こんなんで次本番ですよ。

負塊の曲はほとんど１日で覚えて異常者アレンジも考えたのだが、最後の「地獄」って曲だけどうもしっくりこなくて悩んでいた。
しかし俺にはちょっと奇策があった。

異常者をスタジオで作っている所をFやNやUは見ていて、３人ともノコギリに衝撃を受けていた。
それは無言のメッセージとなって俺に届いた。

ライヴ中にノコギリで異常者を弾いてよ！(誰もそんな事は言っていない)

俺は一人頷き、地獄の時ノコギリで異常者を弾こうと思ったのだ。それが一つの伝説を生むとも知らずに・・・

まずはノコギリを用意しなければならない。なぜなら今まで使っていたノコギリは小さくてライヴでは見栄えが悪いからだ。
Mに「何ソレ？包丁？」と言われた程だ。さすがに俺も包丁でギターは切らない。でもサイズも形も包丁とほぼ同じだ。
なのでノコギリを買いにカインズへ向かった。しかし工具って結構高いんじゃ・・・と途中で思い、ダイソーに向かう事にしたのだ。
まさか100円でノコギリは無いか、でも見るだけ見てみようと思い寄ったダイソーだが、

あった！しかも、異常者にピッタリだ！

※写真に加工はしていません。
こんなにイメージにピッタリの物があるなんて、運命としか言いようがないだろう。

そしてライヴが始まり、最後の曲になった。今思えば前日のブルースのおじさんも初対面の初合わせもこの瞬間の布石だった。
俺自身は３年ぶりのライヴで、ライヴがどんな物だったかを忘れていた。それをリハで思い出させてくれたのだ。
音楽を辞めようとさえ思っていた所にリハで急激に上がったテンション。
例えるならそれは自殺が未遂に終わった所に、出て行った嫁が帰ってきて、宝くじで１億円が当たったような感じだろうか？

そんな異様なテンションで冷静さを保てるわけがなかった。

突然異常者を投げ捨てステージから出て行った俺は一体外で何があったんだ！？と言わんばかりのボサボサの髪になってステージに戻ってきた。
しかも片手にはノコギリを持っている！

予定ではノコギリで異常者を弾くはずだった。
しかし弦にノコギリを当て、手前に「弾く」と・・・

弦が全部切れた！

後日この話をすると、みんな一様に「あたりまえだね」と言う。確かに。ノコギリで弦が弾けるわけがない。
でもこの時は本気で弾くつもりだった。だって100円のノコギリなんて切れると思わないじゃん？

いきなり出だしで弦が全て切れてしまった。最後の曲とは言え、まだサビもやっていない。
これはマズイ。そんな中、冷静さを欠いた俺が下した決断は、

ボディにノコギリを当てた！そして…弾いた！

何かがフッ切れたようだった。あの日を思い出す。異常者に初めて出会い、ヘッドを切り落とした日。
狂ったようにボディを切る！もう俺にも止められなかった。手がリズムに合わせてノコギリを振るう！
ボディが異様に硬かったのが幸いだった。ボディはボロボロになったが、切断はされなかった。

刃先がズレ、ネックを切り始めた！
しかしほんのちょっとだけ残っていた理性が「ネックはヤバいよ！弾けなくなっちゃうよ！」とギリギリの所でノコギリを投げ捨てた。

しかしノコギリを失っても俺の暴走は止まらなかった。ピックアップが縦に付いていたのがカンに障ったのか、おもむろにピックアップに手をかけ

引きちぎった！

理性が「それもヤバいよ！配線苦労しただろ！」と訴えかけても無視された。

壊す所が無くなった俺は異常者を投げ捨てステージから出て行った。そしてライヴは終了した。
これがCloveで今や伝説と化している話の真相だ。

見るも無残な異常者。「狂」の文字の所がノコギリに削り取られている。

ちなみに、この日のライヴビデオは負塊で販売してます(客にかぶってノコギリはあまり見えないですけど)。

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