How to 異常者
06.5/10〜14
異常者も完成し、新品の弦を張り、チューニングも決まった。これで明日Uに異常者を渡せば仕事は終わりだ。
そう思っていた。しかしチューニングやボディ弦など普通のギターとは非常に異なる異常者を普通に使えるだろうか?
Uなら何でも弾きこなせる気はしたが、やはり製作者の意図(例えば1・2弦はパワーコード用みたいな事)を解ってもらいたくなり、眠れなくなってしまったので教則音源を作ろうと思い立った。
チューニングが完成したのが朝4時。音源の製作に取り掛かったのは朝5時近くだった。
目的は教則だったので、とにかく「異常者ではこんな事が出来ます」みたいな物を作ろうと思った。
だからフィーリングで思い付いた事を思い付いたままに演奏した。
奏法も閃いたら即、実行した。6曲出来るのに4時間かからなかった(1曲はボツ。ミキシングなど含めても7時間位で完成した)。
後から思えば、この日は何かが降りていたのだと思う。それはFも同感だった。
言うまでも無く、この時出来た物が「How to izyo-sya」だ。音源のコーナーで聴く事が出来る。
これを作った事が後々、大変な事になる。
翌日異常者と音源を初お披露目したのだが、Fの反応が今までに無い物だった。
それまでは自己満足に過ぎないのではないかと思っていたのだが、大絶賛された事で確信が持てた。
音源を作っている時に異常者の可能性と共に「自分の可能性」も垣間見たのだ。
今までずっと音楽をやって来たが、突然別の世界に来てしまったような感じだった。
うまく例えられないが、今までの事が全て白紙に戻ったような、まるで音楽を始めた頃に戻ったみたいだった。
そう、小学生が将来を想像するのに似ているかも知れない。
何だかこのまま終わるのが惜しい気がした。
ちなみにこの日は11日。負塊のライヴは14日。
そして13日の夜7時、俺はスタジオに居た。異常者を持って。いや、負塊の練習に異常者で入った。
とりあえず俺が異常者のパフォーマンスをして、それからUに譲渡しようと思ったのだが、Uは今日、明日で異常者は弾けないと言う。
そして俺が異常者を持つ姿が異様にあっていたらしく、ライヴに出る事になってしまったのだ。
負塊の曲もほとんど知らないのに、明日ライヴ出るんですか?
もっと言うなら負塊の事もほとんど知らないのに(この時点でNやUとは面識があるくらいで親しくはなかった)。
とにかく練習しなくてはならない。まだ異常者を弾き始めて3日しか経っていない。何もかも初心者だが、今は俺が一番異常者を弾ける。
とんでもない状態だ。
しかし、練習をしようと思った矢先、元プロ(60才くらい)のブルースをやっているおじさんに出会う。
彼はその異様な形の楽器に興味を示した。そして彼は言った「曲を弾いてよ」
俺は音源にあった1曲目を弾いた。
弾き終わったら彼はこう言った「曲を弾いてよ」
いや、今1曲終わったんですけど…
仕方なく2曲目を弾くと、彼は「じゃあ、曲を弾いてよ」
・・・・・・
結局全曲弾いたが、彼には「それは曲とは言えない」と言われた。
元プロの人がそういうのだから俺のしていた事は間違っていたのか!?ヘコむ俺。
しかし、「このギター、3弦が無いじゃん!」
いや、ギターではないんですけど・・・・
数分後、
「このギター、3弦が無いじゃん!」
ってアンタ、
酔っ払いかよ!
彼は泥酔していた。
そんな彼に真面目に付き合い、深夜1時やっと練習を始める事が出来た。
彼は5度程、3弦が無い事に驚いていた。
精魂尽き果てた俺は深夜3時に力尽き、帰宅する。
しかし帰路の間ずっと彼の言った言葉が頭を離れなかった。
「それは曲とは言えない」
酔っ払いとは言え、元プロの人のその一言は俺を冷めさせた。
浮かれていた。みんながウケていたのは音楽ではなく、ただネタにウケていただけだったんだ!
そう思うと自分のやっている事は何て愚かなんだろうと思った。
俺は今日限り音楽を辞めよう。明日から就職活動しよう。そう思いながら家に着いたのだった…
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