ハッピーバースデイ異常者

06.4/21〜29
前回で書いたシロアリ退治に使用したのはゴキジェットではなく、ゴキジェットプロだった。

よく効く。


あれから程なくして携帯が鳴った。自己嫌悪に陥っていた私はあの夜の事は悪い夢でも見たと思って忘れようとしていた。
しかし忘れる事は周りが許さなかった。無論あんな事をして許されるはずがない。それどころかFがU氏にZO-3を進呈してしまったと言うのだ。
まぁ最初からネタみたいな物だったし、見せて捨てられればそれでいいだろう。少しでも笑ってもらえれば幸いだ。そう思っていた。
しかし彼は違ったのだ。変形ZO-3を見た彼は信じられない事に、

「カッコイイじゃないですか!!」

と言ったというのだ。さすが天才。計り知れない価値観の持ち主である。
そしてその後スタジオに来たバンド「負塊」の中心人物N氏が変形ZO-3を発見してしまう。
彼の反応は少し安心するものだった。彼はZO-3を一目見るなり指をさして、

「異常者だ!異常者だ!」

と叫んだというのだ。この反応は解りやすい。期待していたものだ。
ちなみに異常者というのは負塊の曲の1つである。そしてこの瞬間から変形ZO-3は異常者と呼ばれる事になる。

負塊の2人が気に入った。こうなってくると次への期待が膨らむ。

ライヴで使って欲しい。

月末にはライヴがある。あと10日足らず。間に合うだろうか…
水面下の戦いが始まった。

まずFに勧めてもらう事にした。Fも異常者のライヴデビューを見てみたいらしく、Uに異常者を使う事を促す。
Uの反応は解らなかったが、意外な事にNが猛反対したらしいのだ。
負塊のリーダーが許さないという事は使用が却下された事を意味する。

しかし後日、吉報が届く。初バンド形式でやる負塊(当初はこの時限りという予定だった。普段はN1人)は記念に音源を作ったのだが、その中で異常者が使われたというのだ。
実際聴いてみると負塊の曲では使われていなく、ボーナストラックに異常者用の音源が入っているというものだった。
しかしそのサウンドは見事に出来上がっていた。

ネック側に5本、ボディに1本の弦が張られている異常者。新品の弦など張るわけもなく、捨ててあったギターに付いていた弦を張り直した。
切れたり長さが足りなかったりで弦の太さも張る位置もメチャクチャ、もちろんギターチューニングなど出来ない。
そんな異常者で2曲も弾いていたのだ。

話に寄ると叩いたりして音を出していたらしい。彼に先入観などない。彼は自由だ。

脈ありと感じた私はそれとなく異常者をライヴで使わないか聞いてみた。Uは曲によっては使ってみるのも面白いという感じだった。

どうせなら全曲異常者で弾いてよ。

この時の私の気持ちである。むちゃ言うな。

そしてライヴ当日になる。私はUにもう一押しした。異常者を準備しておくと。しかし異常者が使われる事はない。それは解っていた。
ただもしかしたら使うかな〜とちょっぴり期待していただけだ。それがあんな事になるなんて…

ついにライヴが始まった。この日はNが企画したイベントでNの誕生日をみんなで祝うというなんともNらしい唯我独尊なイベントだった。
もちろん取りは負塊である。そしてついにその時が来た。
イベントは大盛況で沢山の出演者・動員数だった。みんなNを祝う為に集まった。みんなNの誕生日を祝っていた。そしてNは叫んだ。

死”ね”ーーーーーっ!!

大爆笑するF!盛り上がる会場!みんなどこかおかしい。
その時、ステージのUに異変が!何と愛用のギターが突然壊れてしまったのだ!どうしてそうなったのか解らないがジャックが陥没してしまい音が出なくなってしまった。
ギターを投げ捨てステージから出て行くU。怒って出て行ってしまったようだった。

会場に暗い影が落ちる。しかし次の瞬間Uがステージに戻って来た!しかも、異常者を持っている!!
異常者を知らない観客もその姿に興奮したのか、ひときわ盛り上がる。まさかこんなドラマチックな展開で異常者がライヴデビューするとは…
そんな中うずくまるU。どうしたのか?せっかく異常者を持って来たのだから後ろにも見えるように弾いてほしい。

あ・・・

ストラップピン付けるの忘れてた。

いやぁ、付けなきゃって思ってたんだけどね。うっかりしてた。どうりで変な格好で弾いてると思った。あんなバランスの悪い楽器をまともに弾けるわけがない。
実際持ってみて気付いたけど、普通のギターってちゃんと重心とか考えられて作られてるんだね。足に引っ掛かる形も重要だった。
異常者はバランスも異常で座って足組んでも弾けない。あれは地面に置いて弾くしかない。けど、地面に置いて弾くにしてもボディが小さい為とても弾きづらい。

でもライヴは凄くトリッキーでステキだった。あの夜は熱かった。

ライヴ後、異常者を見てみると破損していた。ライヴ1回で壊れてしまっては製品化は望めない。この点も改良しなければいけない。
ライヴを見終えた私は考え方が変わっていた。この楽器の可能性を垣間見せられたからだ。
この日からネタだった異常者を本気で開発していく事になる。まずはうちの工房に持って帰ろう。
もう異常者が誰の物なのか分からなくなっていた。
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