異常者の7日間戦争


先日レコード会社からメールが来たんです。
「オムニバスアルバムに参加しないか?」って。
まぁこの手のメールは時々来るんだけど、貧乏な私にはとても出せないような高額な費用を提示されるのでお断りしている。
手当たり次第に送っているような内容や異常奏者の方針を理解していないような内容の物は無視している。

しかし今回は内容が良かったので思わず食いついてしまった。だって、
「ミシンのオムニバスに参加しないか?」だよ!
それはもう参加するしかないでしょう!?

と、思い連絡をした所、どうやらミシンのオムニバスではない事が判明

てっきりミシンのオムニバスだと思ってました。
世界中からミシン奏者を集めたけど、ミシン奏者の絶対数が少な過ぎて私の所にまで連絡が来たんだと。

話によると「ここにしかないような音楽」がコンセプトのアルバムらしい。
私は全然なれてないと思うけれど、このようなアルバムに誘ってもらった事は嬉しい。
さらに、それは異常奏者を理解して送ってくれた物と判断し、話を受ける事にしました。

しかも全国流通や宣伝、マスタリングやプレス代もろもろレコード会社が持ってくれるし。
素晴らしいですね。採算は合うんでしょうか?

しかし最初から難関が私の前に立ち塞がっていた。
話を受けてから音源の提出まで1週間しかないのだ。

今までの音源の中から1曲提供、という事なのだろうが私にはそんな物は無い。
いくらなんでもデモ音源を全国展開するのは失礼な気がするし、クオリティにも極端な差が出てしまう。
それは最後の手段として置いておくとして、今回はずっと作ろうと思っていた正式音源を作ろうではないか。

1週間で

作詞作曲して、録音して、ミックスダウンするだけなのだが、
これは経験者しか解らないでしょう。普通1週間じゃやろうとも思わないような事だと思います。

ここからが異常奏者のみせどころ。
まずは構想を練ります。これが一番大切。
ペーペーの頃この話を受けていたら、いきなり作曲から入っただろう。時間が無いし、曲を作らないと!って。

私は物心ついた時からギリギリな時間ですごしてきた。提出ギリギリ、遅刻ギリギリ、赤点ギリギリ、たまにアウト。
だから良くも悪くも今では与えられた時間をギリギリに使う技術を身に付けてしまった。

んで、私のスケジュール。1週間のうち半分以上の4日間は構想に費やす事にした。
作曲1日。録音等2日。

構想。まずどの楽器を使うか
これは大きな問題だ。デモ音源では楽器1つだったが、正式音源ではそれらの楽器を組み合わせて使いたいと考えていた。
しかし家には数十種類の楽器がスタンバイしている。メインはIZYO-SYAとミシンだが、それ以外の楽器も使いたい。
けれど、あまり色々な楽器を使い過ぎるとゴチャゴチャして自己満足な物になってしまうし、かと言ってキレイにまとめるのも保守的で嫌だ。

頭の中で色々な組み合わせをイメージする。家でゴロゴロ、散歩、公園のベンチで寝る。雲を眺める。人の居ないビル街を散策する。
時間が迫っている時ほど、ゆったりと過ごさなければならない。まるで暇な人のように。地獄は後回し。
この辺の緩急のつけ方は俺のギリギリ人生その物ではないだろうか?でもこれが結構好きなのだ。

一番ネックだったのがIZYO-SYAとミシンのバランスだ。どちらも目立たせたいがイメージでは上手くいかない。
この時初めてIZYO-SYAとミシンでは方向性が違う事に気が付いたのだ。
2つを合わせる事を意識していなかったので、IZYO-SYAはエスノ方面、ミシンはテクノ方面へと向かっていた。
どちらかをどちらかに合わせる事は可能だ。しかしそれでは合わせた方の魅力を100%引き出せない。

この時点では両方を50%50%にするイメージが出来なかったので、今回はどちらかをメインにする事にした。
個人的には異常奏者の始まりであるIZYO-SYAをメインにしたかったが、
今回は一般の人も聴くCDと言う事で(異常さが)ミシンの方が分かりやすいだろうという結論に至った。

これで4日が過ぎ作曲をする事になったのだが、結局構想の時点で作曲の領域までイメージしてしまったので、あまりする事が無かった。
なので仮録をする事にした。

仮録とは本番録音の前にとりあえず録音してみて、どんなもんか聴いてみよう。という物だ。
イメージとのギャップを判断する感じかな。
まぁ大体イメージ通りだった。イメージより悪い所は時間をかけなければいけない所で、無理と判断。
逆にイメージより良い所はさらに引き立つように調整。

時間が無いので、やりたい事は最大に、やりたくない事は最小に行った。
やりたくない事ってエンジニアがするような作業ね。時間が凄くかかるので割愛した。品質より優先させたい事があったので。
やりたい事も色々失敗して時間をロスしたけど。例えばテープ。一度テープに落としてパラでミックスしようとしたんだけど上手くいかなかった。
この状況でそんな事をやろうとするのも異常だが。

正式音源は今までの実験のまとめとして作る予定だったが、結局今回も大量の実験が行われている。というか、ほとんど実験。
上記のテープも初めての試みだったので失敗した。大成功の実験もあったけど、これはもう正式音源って呼べないかも。

そして本番録音。
デモ音源のインタビューであった通り「録音は一気に行う」を実行した。2日オールで。
作曲したと言っても展開とイメージだけしか決めてなかったので基本アドリブ1テイクです。

一番の失敗は歌かね。色々面白い事をしたかったんだけどオール2日目の夜に行ったので声が出ない出ない。
マスタリング時に困るのでリヴァーブを深くかけないで下さい。と言われていたので、かすれた声を生かして残響音だけを収録
こんな所で反抗してどうする?しかも思ったようにならず。すみませんでした。

ま、そんなこんなでミキシングしている時間も無くなり佐川ダッシュで佐川急便へ。
受付時間は過ぎていたけれど対応してくれて感謝。

中途半端と言えばそれまでだが、音楽ってその場限りの物だからね。
これはこれで「1週間で作った」という作品として完成してます。

いやぁ、それにしても良いネタになりました。ありがとうございます。
あえてギリギリに連絡して下さった事が良かったです。
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