自作ピックアップ@

'10.9.17
IZYO-SYAの開発にあたり、どうしても市販のピックアップに限界を感じ、自作する事にした。
実は前々から自作したいと思い、何度か作っていた。ミシンやノコギリ、カリンバ用のピックアップは実用もしていた。
しかし、やる度にもう二度とやりたくないと思い、封印していたのだ。

なぜか?それは経験者ならわかると思う。心が折れるのだ。

何千、何万回も糸を巻く作業だと思ってもらえばいい。
しかもただ巻くだけではなく、髪の毛より細い糸を、切らないように慎重に、かつ巻き数をかぞえながら
できるだけ巻いた線の隣に(螺旋になるように)巻いていなかければならない。
単調な作業を延々集中力を切らさずに何時間もやらないといけない。

私とFはこれを「白髪(はくはつ)になる作業」と呼び、忌み嫌っていた。
(Fが持っていたピックアップ工場の写真(たしかギブソンだったかな)に写っていた ピックアップを巻いている人たちが皆、白髪のおばちゃんだった事に由来する)

しかし、これは道具を使わずに巻いた時の話である。
いつも「二度と作る事は無い」と思いながら、心が回復するとまた作り出してしまうので
ここは今後も作る事を見込んで、ちゃんとワインディング・マシンを作ろうと思い立ったのだ。

作るんかい!と思われたかも知れないが、これには理由がある。
自作は好きだけど、さすがにうどんを作るのに小麦から育てようとは思わない。
気に入る小麦が無いから、最終的に小麦の品種改良にまで手を染めてしまうパターンが多い。
今回も最初は道具を買おうと思って探してみたのだが、売っていなかったのだ。
自作ギターキットとかフレットとか売っていたので、ピックアップを作る道具も探せばあるんだろうと思っていたが、全く無かった。
そう言えば自作ギターとかはよく聞くけど自作ピックアップって聞かない。
ブリッジやペグまで作ろうと思わないのと同じかも知れない。私は異常者のブリッジやネジまで作ったが(この話はまた別の機会に)。
こんな時私は、売ってないのか…じゃあ仕方ない…諦めよう…とはならない。
売ってないのか…じゃあ仕方ない…
無いならば、作ってしまえ、ホトトギス。となるのだ。
こうしてピックアップを作る為に、まず道具から作る。という平賀源内的な道を辿る事になった。

以前にもミシンの糸巻きを改造して作った事があったのだが(mixiに動画があります)、速度やトルクの調整ができず、
かなりの高確率でエナメル線が切れてしまうので、巻数の多いピックアップは作れなかった。
数百回程度の巻き数なら途中で切れてもやり直せばいいが、ギターのシングルコイルなんかは6千回以上巻くので、
それが4千回位巻いた所で切れてしまうと泣く事になる。巻く回数が多い程にリスキーな作業なのだ。

経験者として最初に言っておこう。
自作ピックアップはやめといた方がいい。ピックアップ作るなら他の自作した方が絶対に楽しい。
しかも自作ピックアップで市販品以上の物を作る事は、ほぼ無理だと思った方がいい(同等の物ができれば大満足)。
私なら市販品を買う。作る前はピックアップって何でこんなに高いの?ぼったくり?と思っていたが、今はとても納得できる。
じゃあどうして自作したか。それは異常者用のピックアップが売っていなかったからだ。
弦2本用のピックアップと弦3本用のピックアップが欲しかったのだが、探しても見付からなかった。
世界にあるピックアップのほとんどが6本用で、7本用のピックアップですらほとんど無かった。

でも確実に特殊ピックアップの需要はあると思う。
異常者みたいな特殊な楽器じゃなくても、例えばバイオリンとか鉄琴とかにピックアップを付けたいって思っている人はいるはずだ。
なので苦行と知りつつも、どうしても作らなければいけない人の為に自作ピックアップの情報を公開しようと思う。
私はせっかく作るならオリジナルのピックアップを作らねばと思ったのでネオジム磁石という、ピックアップでは使われない磁石を使ったのだが、
基本的な工程は同じなので、なんかしらの参考になると思う。

まず最初にワインディング・マシン、いわゆる糸巻き機から説明しよう。
ワインディング・マシンなんて見た事無かったので作り方も、どんな物なのかもわからない。
(Fの持っていた写真からは機械が判別できなかった。)
最初に閃いたのはハンドルだった。ハンドルなら作り方のノウハウもあるし、回すのも上手い。
ハンドルありきで色々考えた結果、最初に作ったのがこれだ。

ピックアップを挟んで手動で巻いていくシステム。しかも力技で、回す度にカウンターにハンドルがぶつかり自動で(?)カウントしていく。
カウンターは昔は3千円位してたのが、今やダイソーで100円で売ってる。性能も申し分ない。
虫眼鏡はエナメル線がもの凄く細い(1ミリの十数分の一)ので、それを良く見る為に付いている。
後ろのクレーンみたいなのはテンション(線を巻く強さ)を調整できるように考案したシステム。
高さや角度が変えられるようになっていて、線をここに引っ掛けてテンションを調整する。なんとなく付けた機能だったが、効果は絶大だった。
これ特許取れたんじゃないかと思う。
作った時は知らなかったのだが、テンションの調節機能は必須だ。後で説明するが、この機能が無いとまともなピックアップは作れない。

マシンができたのでピックアップを作り始めた。これで楽にピックアップが作れると思っていたが、それは甘かった。
手で巻くよりは遥かに速いのだが、それでも結構な時間がかかるのだ。
大体五千回巻くのに2時間位。しかもこの作業で私の集中力が持続するのは30分位なので、30分ごとに30分の休憩を取る。
休憩は段々長くなって、結局はピックアップ1個に1日かかってしまう。
要するに向いていないのだ(最終的に休憩入れて2時間半で作られるようになった。慣れって凄い)。

それでも集中力を欠いて巻き続けるのは良くない。最初はテレビを観ながらやったらどうだろう?とか思ったのだが、
それはもうぐちゃぐちゃなピックアップができた。もしかしたら音が良いかも知れないと思ったが、そんな事は無かった。

もっと速く巻ける機械を作れないだろうかと思っていたらネットでワインディング・マシンを発見した。
たしかアメリカのサイトだったと思う。そこで写真を参考に作ったのがこちら。

四角い箱から両サイドに出てる板が回転する。たぶんここに両面テープでボビンを貼り付けて巻くんだと思う(私はそうしてる)。
両面テープって発想は写真を見るまで思いもつかなかった。目から鱗だった。
手前のはエナメル線が通るガイドだと思うけど、ハンドルを回さなくていいぶん両手が使えるのでガイドは無くてもいいような気がする(棒はあった方がいい)。
中身は2chかなんかの掲示板でミニ四駆のモーターとダイソーの歩数計で作れるって記事を見たので、その通りに作った。全部で3千円位かかった。
自作楽器は誰にも頼らないってポリシーがあるから自分で考えて作るけど、道具はできるだけさっさと作りたかったので助かった。
でも結局は自分で考えたマシンを使う事になる。また後で説明するけど、こうやって楽しようとしたのがいけなかった。
次からは道具も自分で考えて作ろうと思う。

両サイドに板が出てるのは右巻きと左巻きで使い分けるんだと思うけど、私はスイッチでモーターの回転を変えられるようにしたので片方いらなかった。
フットスイッチとボリュームペダルを繋いで両足で速度とON・OFFを操作する。テンションは手とモーターのトルク調整で行う。
気を付けなければいけないのはトルク調整。強過ぎるとちょっとした事で線が切れてしまう。線を固定しても切れない(モーターが回らない)位にする。
あとは手前の棒とサイド板の角度。エナメル線はもの凄く細いので、ここを超正確にしとかないと斜めに巻かれていってしまう。
私は目でわからない位正確に作ってから、何度かピックアップを巻いてサイド板を固定してる部分に紙を挟んで調整していった。

こうしてオート・ワインディング・マシンを作ったわけだけど、これは非常に便利だった。あっという間にピックアップが巻き上がるのだ。
参考までに私が5千回巻くのにかかる時間は休憩無しで、マシンを使わない完全な手巻きが8時間、手動マシンで2時間、この自動マシンは30分で巻き上がる。
でも品質は手動マシンに敵わなかった。自動マシンは楽な分、心に隙ができてしまうのが原因だと思う。
ピックアップ作りはギャグじゃなく本当に苦行なのだ。集中力がそのまま音に影響する。
正確に巻けば音が良いってわけではないけど、何も考えずに巻いたら、ただ音が悪いだけのピックアップができる事になる。
適当に巻いたピックアップが運良く音が良いって事は無い。ちゃんと巻いた上で、更に運も重ならないと奇跡的なピックアップはできない。
安いギターに付いてる、音を拾ってるだけ。みたいなピックアップは苦行が足りないと思う。
だからこそ音の良いピックアップは苦行の成果なので、高くても納得するようになったのだ。

次回は実際に自作したピックアップの話をしようと思う。
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